組織化するP2Eゲームエコシステムとその展望
Axie Infinity/Yield Guild Games/Merit Circle/Blockchain Space/BreederDAOを例に展望をまとめました。
はじめに
仮想通貨(暗号資産)の寄付活動の啓蒙・NFTチャリティーなどを手がけてきた藤本が、なぜP2Eなのか?なぜAxie Infinity/Yield Guild Games/Merit Circle/Blockchain Space/BreederDAO等のプロジェクトに出資してるのか?
今までご説明する機会がなかったので、今回はその理由、そしてこのエコシステムの展望についてお話しさせて頂こうと思います。私の中で過去の活動と現在は繋がってて、もっというとP2Eのエコシステムが実現する世界は私が将来見たかった世界により近づいたものです。
そもそも私が寄付活動に取り組む中で、寄付だけでは限界がありサステーナブルではないという点、与えられるだけではなく自立できる仕組みの確立が必要だという点は常に課題を感じていました。
また、働く場所を選ばなくなり、Metaverse (メタバース)という言葉がこれほど身近になった世界線の中、貧困、差別等により金融サービスから取り残され経済的に不安定な状況にある人々が公平に基本的な金融サービスへアクセスできたり新しい働き方を見つけるようになれば良いのに。とも思っていました。
そんな中、これらの課題点を解決し、そして今後加速させてくれる可能性が、P2Eのエコシステムの中にあると私は気付きました。それ以降、この領域には積極的に出資、事業のバックアップサポートをしています。皆さんにもこれから書くレポートを読んで頂き、P2Eエコシステムの可能性の感じて頂けると幸甚です。
※本稿はあくまで市場動向を分析・紹介する記事であり、投資を含むあらゆる活動を勧奨するものではないことをご了承ください。ブロックチェーンゲームをプレイする際には、法令や税制にご注意の上、自己責任にて行ってください。
全世界25億人市場のポテンシャル
「全世界25億人の銀行口座を持たない人口へのリーチ」という金融包摂の謳い文句は、それこそブロックチェーン登場の頃から盛んに喧伝されてきました。
しかしながら、当時の環境では「暗号資産を得るためには取引所の口座開設が必要であり、そのためには銀行口座が必要」という皮肉めいた矛盾の他、マイニングなどを行うにしても、そもそもの原資をどうするかという問題などが山積しており、実現には程遠いものでした。
ほとんどの一般人にとっては、普通のアルバイトをして現金でその場で受け取る方が明らかに効率的ですし、オンライン上の仕事で報酬を得るためには、国際基準で付加価値を認められる知見やスキルが必要とされるという本質的な問題もありました。
ところが、現状のPlay to Earn(P2E)市場においては「銀行口座も資本も持たない人々がお金を稼ぎ、商品やサービスの支払いに充てる」ということが実現しました。
具体例としては以下のような流れとなります。
- ウォレット等の初期設定を行う。
- ゲームプレイに必要なNFT資産の貸付を受ける。(ギルドが貸付を行う事が多い)
- ゲームにログインしてデイリーミッションをクリアする。対人戦で勝利する。
- ゲーム内暗号資産で報酬を受ける。NFT貸付主と分配する
- ゲーム専用の暗号資産をDEX(Decentralized EXchange、分散型取引所)でETHやUSDC等の汎用的な暗号資産に交換する。
インターネットに接続可能なPCやスマートフォン(現状ではiOSでよりもAndroidが主流)ならびにゲームをプレイするスキルと時間は必要とはなりますが、このように「銀行口座も資本も持たない人々」を市場に招き入れる環境は整って来たと言えます。
アフリカなどの地域では、暗号資産を利用可能なデビットカードなどの決済サービスが急速に普及しています。また、フィリピン等ではゲーム内暗号資産で直接支払いのできるカフェやレストランも増えました。
一部のサービスを通じて、暗号資産での教育認証取得のための支払いも可能となっているため、一部の工場のように健康や生命の危険を侵すことなく収入を得つつ、国際基準の高等教育を得て、さらなるキャリアパスを築くという道筋も可能としました。
P2Eゲーム分野にa16zを始めとする多くのVCがこぞって投資している背景には、このような爆発的な市場のポテンシャルと社会的な意義があると言えます。
ギルドの登場
ここでは、P2Eゲームの盛り上がりの代表例であり、後続ゲームのベンチマークともなっている、Axie Infinityのモデルをベースに説明します。
現状、Axie Infinityで遊ぶためには3体のキャラクター(axie)のNFTが必要となります。
この3体のキャラクターを用いて、デイリークエストや対人アリーナで対戦を行い、勝利した場合、より高い報酬として暗号資産が得られます。また、対戦成績は後述するシーズンごとに順位付けされ、高い順位を獲得した場合も暗号資産が得られます。
実際のゲームでは、自分の使用キャラクターと対戦相手の使用キャラクターとの属性の相性や強弱、技の種類と技を出す順番によって勝敗が決まります。そのため、戦略や駆け引きといったスキルが必要とされる上、もちろん、プレイする時間が必要となります。
手持ちのキャラクターを組み合わせて繁殖させるという機能もあり、遺伝的に属性が引き継がれるのですが、組み合わせは膨大な数となるため、こちらもデータの蓄積や試行が必要となります。
このようにゲームプレイ自体はデータに基づく戦略をベースとした労働集約的なものではあるのですが、シーズンごとに「強い」キャラクターが変わるため、各シーズンに勝てるaxieの価格は高騰する傾向にあります。また、繁殖するにしても、繁殖自体に暗号資産を支払う必要があるため、資本集約的な様相が強くなっています。
加えて、上記の仕組みだけではランクが固定される傾向となるため、運営はゲームを1ヶ月程度のシーズン制とし、シーズンごとに属性の相性や強弱を変動させることでバランス調整をしています。その結果、ランキング上位に入るためには、1ヶ月程度のシーズンのためだけに最適化されたNFTを購入したり、繁殖させたりする必要が発生し、さらに資本集約的な様相が強まることとなりました。
結果として、多数の投資家で資本を集約させ、対戦や繁殖に必要なゲーム資産を買い揃えた上で、多数のゲーマーを招き入れ、強いaxieを貸し与えてプレイしてもらい、戦績に応じて成功報酬を分配するという集団形成が合理的な戦略となっています。この集団はギルドと呼ばれます。
分散型統治によるゲームチェンジ
先のギルドの説明を見て、単なる「資本家と労働者」という古き資本主義の構造的再生産ではないかと思われる方もいらっしゃるかと思います。
このあたりがブロックチェーンの面白い部分で、早々に資本をトークン化し流動化することで、ごく少額の投資で「誰でも資本家になれる」というプロジェクトが登場しています。
Merit Circle(MC)と呼ばれるプロジェクト(暗号資産も同名称)もその一つです。
2021年9月から本格稼働した同プロジェクトのレポートを見ると既に140億円を超える資産を保有し、2,750名のAxie Infinityのゲーマーをその傘下に収めています。
MeritCircleのガバナンストークンであるMCを購入することで、世界中のどのような人であっても、プロジェクト運営に対する議決権を得ることが可能です。このような運営形式をDAO(Decentralized Autonomous Organization)と呼びます。
DAOは既存の株式会社と似たような構造に見えますが、DEXを用いれば、誰でもどこでも24時間入手できます。気軽に開催できない株主総会ではなく、運営上発生する様々な議題に提議しフレキシブルに投票可能という点でも大きく異なります。
資本家として参加するか、労働者として参加するか、自由意志で決定することが可能という点で過去の資本主義とは一線を画しています。そして、プレイヤー兼資本家として参加する人も多いのがweb3ならではの特徴です。
MCの特徴としては以下が挙げられます。
- 統治に階層構造を取り入れています。具体的にはプロジェクト全体の意思決定を行うMainDAOの配下にゲーム毎のSubDAOと呼ばれるものが設置されるかたちとなっており、ゲーム毎の運営の意思決定をよりフレキシブルにできる体制となっています。SubDAOはさらにVaultsと呼ばれる単位に分けられ、体制や報酬分配の流れや条件など、各々異なる戦略で運営するかたちとなっています。このような階層構造と各々のニーズに応じた分配戦略が、3,000名近いゲーマーを短期間に招き入れた原動力となっています。
- 既存ゲーム内でのギルド運営だけでなく、新規のP2Eゲーム開発に対しての投資も行っています。個々のゲームエコシステムはどうしても成長の限界やパフォーマンスの変動が出てきますので、このような動きは資金の運用リスクを下げることに繋がります。
前述の通り、P2Eゲームのエコシステムの成長に伴って、個人で直接ゲーム資産を購入して収益を上げることの難易度は増しています。こうした背景から、Merit Circleのようなプロジェクトへの投資がより好まれる傾向となっています。
ギルド運営を支援するツールの登場
ギルド運営はNFTや暗号資産などのリソースをスキルを持つゲーマー複数に配分して、最大のパフォーマンスを得るという意味で企業経営に似ています。
NFTなどの暗号資産の割り当てや管理、報酬計算、ゲーマーの採用・評価・管理、ゲーム攻略に関しての知識共有など、ギルド運営の高度化と連動して、企業経営と同等のシステム化のニーズが生まれています。
ギルド運営業務と企業内システムとの対応
Blockchain Spaceはこのようなニーズにいち早く対応したSaaSモデルのプロジェクトであり、2022年1月22日時点で、のべ百万人以上のゲーマーが参加する4千以上のギルドに採用されています。
注目される点としてはデータに基づく徹底的な自動化です。
各ゲーマーのパフォーマンス分析や獲得報酬の管理、DISCORDによるリアルタイム情報共有、アカデミーと呼ばれる学習コミュニティ、eスポーツ定期開催によるスキル評価・ゲーマー採用などが自律的に運営されています。
報酬の自動送金などの単純な活用のみならず、学習コミュニティの寄与にも報酬を設定するなど、ブロックチェーンの強みを最大限に活かしている点がユニークなプロジェクトです。
大規模なギルドにとっては必要不可欠なツールの地位を獲得しており、上述のMerit Circleの他、業界最大手のYield Guild Gamesともパートナーシップを結んでおり、ギルド運営ツール市場において確固たる地位を占めています。
NFT工場の登場
上述のようにAxie Infinityでは約1ヶ月と短いシーズンを繰り返し、キャラクター(NFT)の属性ごとの強弱のバランス調整を行っています。この事は属性ごとのNFTの需給バランスが大きく変動することを意味します。上述のようにゲーマーが巨大組織となった現在、その変動は極めて大きなものとなっています。
一方で、ゲームの勝敗での収益パフォーマンスを第一とする組織においては、直近の需要のないNFTを購入したり、繁殖したりすることは難しく、バランス調整のたび毎にNFT不足に陥っていました。
BreederDAOはこのような状況に対応するために、運営によるバランス調整を予測して、供給不足の属性のNFTを製造(繁殖)したり、外部から購入したりすることで在庫し、需要に応じて、販売もしくは貸し出しを行う、NFTにおける製造・供給にあたる役割を狙うプロジェクトです。
このようなバランス調整はAxie Infinity以外のP2Eゲームでも避けられないため、非常に巨大な市場となることが期待されます。
本モデルは極めて資本集約的なモデルですが、Delphi、a16z、YGG、Hashed、IVCといった本分野のトップ投資家からの支援を受けることで、ファーストムーバーとしての地歩を固めており、既に10万点以上のNFTの供給、50以上のギルドとのパートナーシップ、8以上のゲームへの対応を実現しています。
BreederDAOは、2022年第1四半期にトークン配布とステーキングの仕組みを提供するとともに、複数の著名P2Eゲームに対応する予定とされています。2022年第3四半期には、市場予測アルゴリズムにAIを導入するなど、積極的な開発を行っていく計画のようです。
繰り返されるツルハシの寓話
「ゴールドラッシュの期間、多くの採掘者が損を被る中、安定的な収益を得ていたのは、ツルハシやショベル、テント、ジーンズを売っていた会社だった」とは、米国の著名投資家ピーター・リンチの言葉ですが、陳腐なまでに引用されるこの言葉は現在のP2Eゲームブームにも該当します。
本稿で紹介したプロジェクトは正にこの「ツルハシ」にあたる役割を果たすものであり、「銀行口座を持たない人々」という巨大市場への期待も含め、多くの投資家の注目を集めていることも納得というところではないでしょうか。
最後までお読み頂き有難うございました。1人でも多くの方にP2Eのエコシステムの可能性を感じて頂けたら幸甚です。今後も定期的に記事を更新していきますのでMediumでのフォローよろしく御願いします。